PR

Re: リシンの双性イオン

投稿ツリー


このトピックの投稿一覧へ

なし Re: リシンの双性イオン

msg# 1.1
depth:
1
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2016/10/17 15:38
公孫硫 
Yusuke 様

お訊ねの質問の前提として

> リシンの双性イオンはα位ではなくε位のアミノ基が電離している

ということですが、これはどこかに書いてあることなのでしょうか? それが「事実」として書かれているのであれば、その資料には問題があるように思います。というのは、我々がリシンの「双性イオン」を観測した時に、どちらのアンモニウム塩がプロトン化されているかを決定する方法が無いからです。結晶中ではちょっと特殊な測定をすればわからないではないですがかなり怪しく、溶液中では決定することはできません。後に述べる実験事実によってε位であると「推測」されるのですが、それは決定(直接観測)ではありません。

まず、リシンのpKaを見ていきましょう。ナカライテスクのHP
http://www.nacalai.co.jp/information/trivia2/11.html
によると、pK1=2.16、pK2=9.06、pK3=10.54だそうです。pK1はカルボキシ基の電離によるもので、pK2とpK3がアミノ基のプロトン化によるものですから、リシンはpH 2.16から9.06の範囲では「三性イオン」(つまり、アミノ基はどちらもプロトン化されている)となっており、リシンが「双性イオン」として存在するのはpH 9.06から10.54の範囲だけ、ということになります。

Yusukeさんのお持ちの資料には「アミノ酸は水中では双性イオンとして存在する」といったようなことが書いてあるとお見受けしますが、それをリシンに無条件に適用できるわけではありません。リシンが双性イオンとして存在する狭いpH領域のことを議論するのもどうかと思いますが、このpH領域でどちらのアミノ基が優先してプロトン化を受けるかを考えてみましょう。

まず、

>-COOH基は電子吸引性な(の)で、電子1つでは変わらない気がします

は、そんなことはありません。電子求引性(吸引にあらず)は、電子という負電荷を引き込む性質ですから、負電荷を帯びた置換基が電子を求引することはありません。かといって、電子供与性かと言われれば微妙です。カルボキシラートが電子供与性を示したような実験事実を探すのは難しい、ということです。電子供与性か電子吸引性かは実験事実によって決まるのであり、理論的に決まるものではありません。

つまり、-COOH側の性質をいくら考えても、α位とε位とどちらのアミノ基の塩基性が高いかを「決める」ことはできません。それで、α位とε位のアミノ基の化学的性質を比べます。今、リシンをアルカリ水溶液に溶かし(pH > 10.54として両方のアミノ基をフリーにして)、酸クロリドと反応させます。すると、ε位のアミノ基が優先的にアミドとなります。この実験事実は、ε位のアミノ基の方が反応性(求核性)が高いことを意味しています。求核性と塩基性は厳密には違うのですが、同じアミノ基なので同じ順番だと考えることができ、この実験事実からε位のアミノ基の方が先にプロトン化されるものだと推測されています。

つまり、pH > 10.54のリシンの水溶液に酸を加えていくと、まずε位のアミノ基がプロトン化され(まずε位のアミノ基がアミド化されたように)、双性イオンが生成するものと考えることができます。

それはなぜかと問われれば、もちろんカルボキシラート基のために決まっており、とすると、カルボキシラート基が電子求引性基として働いたんでしょうかねえ、ということになるわけです。負電荷を帯びた置換基なのにねえ、不思議ですねえ、というわけですが、α位のアミノ基の方が塩基性が高いという実験事実が無い以上、理論的にどうのと言ってもしょうがないのです。

 公孫硫
投票数:1 平均点:10.00

  条件検索へ



PR