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(9) カップリングの位置
勉強中
2004年11月06日(土) 16時27分

社会人3年目の勉強中といいます。
理科の質問箱(日本化学会)へ書き込みをしたところ、
有機化学については、こちらのほうが詳しいのではと教えていただき、
書き込みをさせていただきました。

塩化ベンゼンジアゾニウムと2−ナフトールとがカップリングすると、
2−ナフトールの1位で反応が起こるように書かれてあります。
2−ナフトールは−OHを持っているので、オルト・パラ配向性であり、
パラ位はベンゼン環に使用されているので、オルト位で反応が起きると
考えられますが、2−ナフトールの3位で反応が起こらない理由は
あるのでしょうか?

あまり難しいことは勉強不足でわからないのですが、
是非どなたかご教授下さい。よろしくお願いします。



(10)  (Re:9)
Re:カップリングの位置
Such
2004年11月07日(日) 19時47分


勉強中さん、はじめまして。

塩化ベンゼンジアゾニウムが2-ナフトールとジアゾカップリングをする場合は、確かに2-ナフトールの1位でしか起こりません。これは1-ナフトールとの反応では2位と4位との両方で起こる事と比べてみると不思議に思えるかもしれませんが、中間体の安定性を考えれば合理的に説明できます。

初めにより簡単な話として、フェノールのニトロ化から入りたいと思います。この反応では、まずニトロニウムイオンがフェノールのパイ電子により攻撃を受けて、カチオン中間体(シグマ錯体ともいわれる)を生成します。このときフェノールの水酸基から見てオルト位、メタ体またはパラ位で反応が可能ですが、実際の主生成物はオルト位とパラ位にニトロ基が置換されたニトロフェノールとなります。この選択性の説明は、有機化学の一般的な教科書では共鳴構造式を使用して行われています。ここでは共鳴構造式をうまく書けませんので、詳しい式などは適当な有機化学の本の芳香族化合物の求電子置換反応のところを参照してください。

ここからが本題ですが、ナフトールはフェノールにもう一つベンゼン環が縮合していますので共鳴理論は同様に考えていただければと思います。そうすると、ご質問の2-ナフトールのジアゾカップリングが1位でしか起こらないことが説明できます。

また、もっと簡単な説明としてはとりあえず次のように考えてもいいでしょう。2つのベンゼン環をベンゼン環の形を崩さないようにすると(すなわち、ナフトールの2つのベンゼン環のどちらにも3つの二重結合を割り振った構造を書くこと)、2-ナフトールの水酸基の付いている炭素(2位)とその隣の1位の炭素との間に二重結合を書くことになります。その場合、1位の方に電子の流れ込みがしやすい構造となっていることがお分かりでしょうか(いわゆるエノール体)。このことから考えてみても1位の方が求電子置換反応において反応しやすいことが分かります。

ベンゼン環の反応は共鳴理論を使うと結構合理的に説明できますね。頑張って勉強してください。

Such



(11)  (Re:10)
Re2:カップリングの位置
公孫硫
2004年11月09日(火) 09時43分

Such 様

ナフタレンの求電子置換反応における位置選択性は、福井先生がフロンティア軌道理論を始めるきっかけとなった反応ですよね。だから、今回の質問でも「α位のHOMOが大きいから(終)」という単純な回答もあったと思うのですが、勉強中さんのことを考えて、共鳴理論という面から回答されたのだと思います。

>ベンゼン環の反応は共鳴理論を使うと結構合理的に説明できますね。

確かに、ほとんどの場合そうなんですが... 私は本当は共鳴理論は嫌いです。定量的でないので恣意的な運用が可能ですから。でも、とても便利なので、悔しいけど使ってしまいます。分子軌道法を使うべきだとは思っても、いちいち計算しなければ使えないので、直感的な理解には向いていませんし、結論が天下り的だから教育的ではありませんよね。でも、本質的には正しくない(と私は思っている)共鳴理論で説明していると、後ろめたい気分になりませんか?

 公孫硫



(12)  (Re:11)
Re3:カップリングの位置
Such
2004年11月09日(火) 20時08分


公孫硫さん、こんにちは。
確かに、この当りの議論は難しいところですね。

共鳴理論は定量的な扱いは見た目にはできませんが、この理論が無ければ、今の有機化学は今ほど成り立っていなかったというのも確かですね。反応の位置選択性や反応のしやすさに関しては、今までの積み重ねで教育的には十分でき上がっていると思います。教科書レベルでは分子軌道法が共鳴理論をしのいで、ものすごく脚光を浴びることは当分無いでしょうし(やはり、計算しなくてはならないというところが、誰にでもすぐに取り扱えるレベルでないところが問題かと思います)。

>共鳴理論で説明していると、後ろめたい気分になりませんか?
 
うーん、私は特にそういうことはありません。うまく付き合えば、素晴らしく展開できる理論ですから。

Such



(13)  (Re:12)
Re4:カップリングの位置
公孫硫
2004年11月10日(水) 22時17分

Such 様

共鳴理論の困るところは、どれをもっとも寄与の高い極限構造とするか、と言うところで恣意的に選ぶことができることだと思っています。定量性が無くなるのは、その結果ですね。例えば、勉強中さんのご質問の2-ナフトールについてHOMOを計算してみました(PM3)。以下に、π軌道の係数だけを示します。

1位       -0.46591
2位       -0.37577
3位       0.04976
4位       0.33313
4a位      0.18469
5位       -0.33301
6位       -0.34915
7位       0.13058
8位       0.36939
8a位      0.12381

これを見ると、1位に反応するのは当然ということになりますが、その次に反応する可能性があるのは何と8位です。それに対して、3位は水酸基のオルト位であるにも関わらず最も反応性が低いということになります。共鳴理論で言えば、3位は結構反応してもおかしくない位置なのですけれども。

 公孫硫



(16)  (Re:13)
Re5:カップリングの位置
Such
2004年11月13日(土) 23時27分


公孫硫さん、だんだん本格的になってきましたね。

「最も寄与の大きい」というのは恣意的にといえばその通りです。今回の2-ナフトールの場合は結果的に1位が反応しやすいことは明らかになりましたね。特に、HOMO計算では数字ではっきりと出るところは共鳴理論よりも説得力があります。

今回の例のように、共鳴理論には限界はありますが、それでも多くの場面でHOMO計算をしなくても位置選択性の予測に活用できるところが多用される理由だと思います。もちろん、毎回でも計算できればそれに越したことはありませんが。

Such





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